ミニもの(旧)

1/12や1/6スケールのミニチュアを製作しています

ミニチュアの作り方一覧はこちら → ミニチュアの作り方

「汚し塗装」という誤訳と誤解


スポンサーリンク

ウェザリング(weathering)・エイジング(aging、ageing)・シャビー(shabby)。ミニチュアや模型の世界では、これらは「汚し塗装」なる訳語が付けられていたりしますが、個人的には「汚し塗装」という言葉は、ちょっと弊害があると思っています。少し長いですが、これらについて語ります。

■ より正しく表現すると…

ウェザーとは、「天気・天候」。ウェザーリポートと言えば「天気予報」。(同名のバンドも存在しますが…。)ウェザリングとは、「風化」を意味します。エイジとは、「年齢・時代」。13歳から19歳の世代の若者を「ティーンエイジャー」と呼んだりしますね。エイジングは、生物的には「老化」という意味です。(最近は、美容関連の雑誌やテレビで、「アンチエイジング」という言葉をよく聞きますね。)生物でないモノに対しては、「経年」という意味になります。

シャビーは、実はあまり良い意味でなく「粗末・貧相」というのが主な意味になります。『shabby clothes』というと、ボロ服・ヨレヨレの服といった感じ。また、『shabby-genteel』という言葉もあるそうで、「斜陽」や「落ちぶれてもプライドの高いさま」などの意味に。マンガ「おぼっちゃまくん」に登場する貧ぼっちゃまは、まさに『shabby-genteel』と言ったところでしょうか。しかし、シャビーには、「消耗」という意味も含まれており、『shabby furniture』といえば、使い古した家具という意味にもなるようです。(まぁ、Google翻訳では、「ボロボロの家具」と訳されますけどね…。Google 翻訳「shabby furniture」

つまり、ウェザリングやエイジング、シャビーというのは、年月を経た「風化」・「経年」・「消耗」を表現することであって、「汚し」というのは、個人的には、かなり拡大解釈っぽく感じます。

■ 「汚し」という固定観念の弊害

ウェザリング・エイジング・シャビーを「汚し」と認識すると、まず「汚し」を加えれば良いという足し算(プラス)の発想になりがちだと思います。しかし、「風化」「経年」「消耗」と理解していると、足し算だけでなく引き算(マイナス)の面も見えてくるはずです。「摩耗」「破損」「ヒビ」などは、ウェザリング・エイジング・シャビーにおいて、引き算の表現になるでしょうし、長時間、紫外線を浴びるなどして起こる「退色」なども、同じく引き算的な表現になると思います。

やはり、ウェザリングやエイジング、シャビーの表現が上手い人は、リアル感があります。たぶん観察眼が鋭く、理にかなった構造が、状況説明として働き、リアル感を演出していると思います。単純に「汚し」と考える方とは、説得力が違うので、よりリアルに感じるのでしょう。

■ 具体的に考えると…

実際に、模型やミニチュアでなく、現実の物体を例にして、ウェザリング・エイジング・シャビーといった現象を見てみたいと思います。以下は、海外の画像サイトで発見した「留め金」の写真です。

「汚し塗装」という誤訳と誤解

» stock.xchng - Latch (stock photo by lumix2004)

この画像をよく見ると…。

「汚し塗装」という誤訳と誤解

他の部分よりも、特に輪っか部分の劣化が進んでいます。たぶん人の手がたくさん触れるので、サビが進行しやすいのだと思います。これがもし模型やミニチュアだとしたら、金具全体にエイジング加工などをしがちだと思うのですが、それだと説得力に欠ける気がしますね。

次は、以下の点に注目してみましょう。

「汚し塗装」という誤訳と誤解

丸で囲んだ部分が、黒ずんでいます。おそらく水が滴った部分で、金属成分などを含んだ水が染み込んだことによる現象なのでしょう。意外にも、この部分以外は、そんな黒ずみは目立ちません。(左側の金具部分下は、影によって黒くなって見えますが、よく見ると染み込んだ黒ずみではないようです。)なぜこの部分だけが黒ずむのか?風雨にさらされた場合、どのような水の滴り方をするのかを考えると、原因が見えてきます。

「汚し塗装」という誤訳と誤解

上から降った雨は、当然下に流れます。この留め金の形を考えると、上記のポイントが、よく水が滴りそうな場所でしょう。上から順に、水の通り道を想像して、先端やカーブ部分などの構造を考えると、先ほどの部分の木の黒ずみ具合も納得できます。

最後に、もう1つ注目してみます。

「汚し塗装」という誤訳と誤解

板と金具の輪が接触する部分が剥げています。輪を持ち上げて降ろすときに、当たる部分が剥げるのでしょう。場合によっては、この輪を使ってノックするのかもしれません。接触の構造を考えると、当然ながら、正面から見て、輪のある位置よりも上側に、剥げが出現しています。

さて、全体的に、かなり偉そうに解説してしまいました。不快な文章に思われた方は、申し訳ありません。ただ、「汚し塗装」「汚し加工」という言葉に、違和感を覚えて頂ければ幸いです。(個人的には、アンティーク品やビンテージ品を指して「ああ、汚れた品物ね。」と言われるくらいの違和感がありますから。)「汚し」というのが主ではなく、「風化」「経年」「消耗」という時間の経過を軸にした概念と考えていますので、「なるほど」と思って頂ける方が増えると嬉しいです。